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鑑賞ドン・キホーテ


 

 パリでの2本目のバレエ鑑賞はドン・キホーテであった。劇場は、オペラ・バスティーユである。オペラ・ガルニエとは打って変わっての超近代的な建物で驚いた。演目についての感想は、“楽しかった”の一言に尽きる。


 バレエのドン・キホーテのストーリーは、ある意味、“水戸黄門”的である。物語の中心は、村の若い娘キトリと青年バジルが様々な困難を乗り越えてめでたく結婚するというもので、ドン・キホーテは、諸国行脚の黄門様よろしく、旅先でたまたまそのエピソードに出くわすという設定になっている。

 この演目において、我らがドン・キホーテは、例えば黄門様が葵の御紋の印籠を出すことで、その物語に、“これは時代劇水戸黄門である”との記号を与えるのと同様、ジプシーの寸劇を現実と取り違えて乱入しめちゃめちゃにしたり、風車を悪しき巨人と妄想し無謀な突撃を仕掛けたりという、なるほど一応ドン・キホーテだなと認識させるだけの行為は最低限行ってタイトル“ドン・キホーテ”の面目を保ちつつ、後はほぼ傍観者の立場に徹している。

 このバレエの見どころは、なんと言っても、主役の娘、キトリの快活さにある。スペイン娘のイメージにふさわしく、美しくも鼻っ柱強きじゃじゃ馬で、小悪魔のように男たちをあしらい、娘としての人生を謳歌する。舞台上のキトリは伸びやかに跳躍し、スペイン語でアバニコというあの独特の扇子をぴっと広げて、キメのポーズをとってみせる。今回の舞台のキトリ役も、そんなキトリの魅力を余すところなく表現する素晴らしいダンサーだった。

 自分は、この演目ドン・キホーテを、モスクワのボリショイ劇場でも見た。キトリ役のアンナ・チホミロワというダンサーが、これでもかというぐらいに魅力的ですごく印象に残ったが、その時見たボリショイ版と今回のオペラ版では、場面構成自体が随分違うなとの印象を受けた。ただ、自分がボリショイ版のドン・キホーテを見たのは、何しろ7年も前の話しで、ストーリーの細かいところまでは覚えておらず、記憶違いもあるのかもしれない。

 どちらが良かったかと言われれば、ことこの演目に関しては、自分としてはオペラ版の方に軍配をあげたい。あのスペインの陽光に満ちた雰囲気と、物語の楽しさが、舞台上のダンスの随所に滲み出ていたように思う。この辺りは、スペインの隣りの国であり、同じラテン文化に属するフランスの方が、物語のイメージの再現という点で、対ロシアで少なからぬアドバンテージがあるからかもしれない。

 オペラ座では、来年6月頃にジゼルの公演もあるらしい。自分がモスクワで見たバレエで一番好きだった演目だ。ドン・キホーテとはおよそ対極をなす、極めてロシア的世界観の一作である。それが、このフランスの地でどのような形で演じられるのか、今から楽しみである。


2021年12月

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