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愛の伝説(Легенда о любви)」




 日曜夜。ボリショイ大劇場で舞台を見たのは今回が初めてだ。ソ連時代の1960年代に作られた比較的新しい作品。長らく公演されなかったものが久々に復活すると聞いて見に行ってみた。なるほど、これまで見たものとは全く毛色が違って面白い作品だった。


 男が主役なのである。舞台はオリエント。イスラムの世界である。その地を治める一人の女王と、不治の病の妹、そして、二人から同時に愛されてしまう男の悲恋の物語である。


 不治の病を患う妹シリンを思う女王メフメネのところに、ある時見知らぬ男がやってくる。妖術使いのようなその男は、シリンの病を治せるというが、治療を懇願するメフメネに、その代償を要求する。王位を差し出すという女王の申し出を男は断り、かわりに彼女の美貌を奪うことを求め、メフメネはそれを受け入れる。


 病を治した美しき乙女シリンと、その妹のために美貌をなげうち悲嘆にくれるメフメネ。ある日二人は、若き宮廷画家、フェルハドの姿を見、ともに恋に落ちる。美しきシリンは、その後フェルハドとの逢瀬を経て恋におち、やがて二人は駆け落ちを企図する。怒ったメフメネは追っ手を差し向け、やがて二人は捉えられる。


 激しい嫉妬に苦しむメフメネ。彼女は、罰として、フェルハドにシリンと別れ、「鉄の山」行くよう命じ、水路を妨げ水不足で民衆を苦しめているその山を切り開けば、二人の仲を許すと告げる。


 鉄の山で苦闘を重ねるフェルハド。フェルハドを想うシリンは、姉に彼を許してほしいと懇願する。自らもフェルハドを愛するメフメネは、ついに妹の申し出を受け入れ、二人は鉄の山に向かう。


 鉄の山で水瓶を携え苦しむ女たちと、フェルハドの指揮のもと水路を切り開こうと苦闘する男たち。メフメネとシリンはその場にたどり着き、フェルハドへの愛を全身で表しつつ、メフメネは彼に罪を許すと、シリンは自分のところに戻ってきてほしいと告げる。しかしフェルハドは、悲しげに微笑み、もはや民衆を捨てることは出来ないと、鉄の山に留まる決意を二人に告げる。


 鉄の山に向かって後ずさっていくフェルハド、その両脇に頽れる姉妹の前で、悲恋の物語の幕が下りる。


 この演目の主役は、やはり妹のシリンということになるのだろうか。しかし自分には、この舞台で圧倒的にセンターに立っているのは、フェルハド役の男性ソリストであると映った。ごつごつした男臭さではなく、かといって中性的な妖しさでもない、清廉な湧き水のような、不思議な感覚がそこにあった。


 劇中の音楽がまた、実に美しかった。他の作品に比べると、男女のロマンスのシーンは少なかったかもしれないが、その美しい音楽が、実に濃厚にそのシーンを盛り立てていた。


 この作品を書いたのは亡命トルコ人である。イスタンブールから帰ってからも、写真の整理と紀行文の執筆で、一人の時間の自分は、まだあの空気の中にいる。そんな折この演目を見たことには、やはり何かのシンクロニティを感じざるを得ない。









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