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先生と迷い猫




 モスクワへの帰りのフライトで、イッセー尾形主演の邦画「先生と迷い猫」を見た。どういうわけか、自分は、高校生の頃から、流行りの洋画に対して本質的に“ケッ”という思いがあって、既に2期15年に及ぼうとしている海外赴任生活での日本との行き来のフライトでも、見る映画の殆どは邦画である。

 

 ひなびた漁村の元校長で、奥さんに先立たれたカタブツなじいさん。イッセー尾形主演ということで既に、その居住まいは概ね想像頂けると思う。


 少し気が早いのかもしれないけど、自分は、どんなジジイになってやろうかと、今から結構楽しみにしている。そうだな。あと20数年現役をやって、その後は仕事も何もかも止めて、本当に好きなように生きる。


 ネコは好きだ。大学の馬術部の4年間、泊まり部屋でずっと一緒だった。随分イジワルしたこともあったし、奴らの持ち込むノミのせいで、夏は一シーズンずっと痒かったけど。


 そんな自分にとって、この映画はなんかしみじみ良かった。季節は夏。背景にずっと流れてる蝉の声もいい。自分は、本当に、心の底から日本に恋焦がれている。仕事の場は海外だと決めているが、最後の余韻こそは日本でゆっくり過ごしたいと思う。


 見始めた時には知らなかったが、このイッセー尾形校長、趣味は写真で、中判カメラとライカのユーザーである。カメラにくるくると回してレンズを付ける光景を見て、「あ、L39マウントなんだやっぱり・・・」とか、そういう角度でも楽しませてもらった。


 じいさんは、長く連れ添った奥さんに先立たれている。その奥さんが、生前、家の辺りにやってくる野良猫に餌をあげていたのだが、その猫が奥さんがもういなくなったことを知らず、今でも時々やって来る。亡くなった奥さんの存在を思い出させるからか、じいさんは、猫の姿を見る度にかんしゃくを起こし追い返す。


 ネコは、亡くなった奥さんのところだけではなく、近所のあちこちの家に行っていて、それぞれに名前を付けられ、餌をもらっていた。


 そんな猫が、ある日を境に街からいなくなる。あれだけその猫を嫌っていたにも関わらず、じいさんは、猫の消息を探して奔走し、そこから、話しは静かに展開していく。アクションもサスペンスも何もないけど、そこには思いがけない躍動があって、そしてしみじみと泣かせる。


「どんな生き物も必ず死ぬんだよ。だから残された者はね・・・折り合いをつけるのに必死になるんだよ。」


 いや、いい映画でした。機内映画の良さはこれかもな。普段だったら絶対見ないいい映画に巡り合える。

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