オルジャスの白い馬
自分の、いつか果たしたい夢の一つは、見渡す限りの大平原で思いきり馬を駆って、夜は満天の星空の下で焚火をして野営することである。
映画「オルジャスの白い馬」を見た。日本とカザフスタンの合作である。主人公は、人里離れたカザフの平原で、馬の牧畜を営む一家の少年オルジャス。少年の父親は、馬を家畜市に売りに行った帰りに強盗に襲われ帰らぬ人となる。残された少年と母、そして幼い2人の妹は、親族の中で肩身の狭い思いをし、馬を連れて別の地へ移住することを決意する。
その時に現れたのは、8年間行方不明だったオルジャスの実の父。止むに止まれぬ理由があって8年間雲隠れしていたという。なぜ今更と問い詰める少年の母に対し、身分を隠してでもいいから、オルジャスに会いたいと男が申し出、移住を手伝う雇いの馬飼いとしてオルジャスの家族、そしてオルジャス自身と関わることになる。移動の途中、オルジャスと男は、オルジャスの“父”を殺害した強盗と偶然に遭遇し・・・。
全編を通して、カザフの平原と空、そこを駆ける馬、そして、その広大なる大地で生活する人々の生活が淡々と映し出される。アメリカ映画的な派手な演出や見せ場はあまりないし、ストーリーも少し強引なところがあるかもしれない。でも、ユーラシアの広大な大地と空、そしてその地に駆ける馬、そこに生きる人々にロマンを感じる者にとっては、至福の映画であった。
この映画の中で使われている言語は全てカザフ語だが、オルジャスの実の父親役は、「世界の中心で愛を叫ぶ」「モテキ」等で主演を務めた森山未來である。自分はカザフ語は全くわからないが、カザフ語のセリフを話しカザフ人になり切って役を演じつつ、森山独特の、頑張ればそこそこイケてるはずなのに、何故かイケてない男になってしまう彼の持ち味を発揮していたのは見事である。
カザフスタンには、モスクワ駐在時代、5~6回であろうか、出張で行ったことがある。よく行っていたのは、すぐ南に天山山脈を擁する都市アルマティ。平原の中の街、コスタナイにも一度行ったことがある。いつも、ただ仕事で行って、商用を片付けて帰るだけだったが、一度だけ、仕事終わりの土曜日だったか、アルマティの市内を散策したことがある。
街の中央市場にも行ってみた。街中の大きな市場だったが、自分はそこに、遊牧民の文化の片鱗を感じ、カザフ上空からカザフの広大な大地を見下ろす時もそうだったが、何故か血が騒いだ。自分は、大学の4年間馬術部に所属し、神戸の街外れ、六甲山の麓で、殆ど馬賊のような4年間を過ごしたが、そういう選択をしたことを含め、自分の遺伝子の何%かに、或いはノマドの血が入っているのかもしれないと思ったりする。
馬、大地、そしてそれを覆う大いなる空。自分が焦がれて止まない世界である。ユーラシアのど真ん中、中央アジアの大地で存分に馬を駆って、満点の星空の下で夜を過ごす。いずれ、実現せねばなるまい。
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