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「モヒカン故郷に帰る」



 今回の欧州出張時に機内で見た邦画は、「モヒカン故郷に帰る」だった。

 東京で、パンクバンド“断末魔”のボーカリストをやっているエイキチは、同棲しているユカとの出来ちゃった婚で、7年ぶりに瀬戸の小島の実家に帰った。島の酒屋を営むエイキチの実家の店先は、“永ちゃん”とカープのポスターで埋め尽くされている。店の軽バンには、YAZAWAのロゴが四方のガラスに貼られ、プレートナンバーは830だ。酒屋を守る母ちゃんはカープ一筋。今でいうカープ女子か。弟の名前はコージだ。あぁ、カープの8番ね。

 もういい歳のじいさんであるエイキチのオヤジは、部員が10名しかいない島の中学校の吹奏楽部をコーチとして率い、緩いリズムの“I love you OK”を部員に演奏させている。女子部員のシミズが言う。

「コーチ、曲を変えたいです。」


 “ホワァイ?何故ぇ?”


「埼玉に行った姉ちゃんが言いよったんですけど、中学生の吹奏楽部でヤザワは渋すぎるいうて笑うてました。」


 “ヤザワぁ・・・広島県民の・・・義務ッ教育でぇす。”


「違います。」

1977年、日本人初の武道館コンサート。


「ワシゃあのぉ!目がっ・・・合うたんじゃあ!!」


「知らんし・・・・」

 出来ちゃった婚の2人。エイキチが、ろくな稼ぎもなくユカに食わせてもらっていることを知ったオヤジは、手にしていたみかんの砂糖漬けをちゃぶ台越しに投げつけ、取っ組み合いになる。

「おんどりゃあ、ぶち殺すど。」


「何しよんなら。」

・・・と、オヤジが突然、腰に激痛が走りその場に蹲る。そして、何を思ったか、痛む体を引きずって居間の電話の受話器を取り、満面の笑みで島中のじいさん友達に電話をかけまくる。

「もしもし・・・ワシよぉ。宴会やるでぇ。ええけぇ、早ぉ来いやぁ。」

 島中からじいさんばあさんが集まり阿鼻叫喚の大宴会。宴もたけなわの頃、エイキチがトイレに立つと、酒屋の床に倒れ、救急車を呼んでくれと呻くオヤジが・・・。

 オヤジ入院、ガン発覚、ステージ4。家族がドクターに呼ばれる。肺は完全にやられ、腰椎にも転移している。

「腰椎?」


「まぁ、腰の骨よ・・・。痛がりよったろうが・・・。」

「あの・・・その・・・手術とかって?」


「うん・・・まぁ、島じゃぁ、無理よの・・・。島じゃなくても・・・無理じゃわ。」

 オヤジのガンが進行する中、島にとどまるエイキチとユカ。いよいよ最期が近くなったオヤジ。虚ろになった目で、エイキチに語りかける。中学校出てもラッパ続けよるんか、応援するけぇ、したらお前、東京行かんか、東京行って・・・ビッグになって・・・帰ってぇ来いや。

「だってのぉ、そういう名前に、したんじゃけ。」

 薄れていく意識の中で、病床から大きくなったユカのお腹を見つめるオヤジ。

「お父さん、初孫ですよ~。」


「でかしたぞぉ・・・エイキチ・・・。式は・・・式は・・・見たいのぉ。」

 かくして、島の病院でエイキチとユカの結婚式がとり行われる。そして、まさかの顛末。なるほど、そういえば冒頭のパンクバンドのライブのシーンでエイキチもシャウトしていたな。

 “死に方いろいろ!!死に方いろいろ!!ガッデム!!!”

 そう、人間、どう死ぬかだけが問題なのだ、きっと。

 エイキチ/松田龍平、ユカ/前田敦子、オヤジ/柄本明。タイトルはモヒカン/松田だが、実質の主役は、やはり柄本だろう。なんだかまるで、自分がアムスから二晩だけで帰省した二日目の夜にぶっ倒れ、そこから3か月経たずしてすい臓がんで死んだウチのオヤジそのものじゃないか。

 場所は、蒲刈島あたりで撮影されたようだ。そうした島の風景も、広島弁も懐かしい。

 自分が、新人時代の4年を過ごした広島。あれは鹿老渡(かろと)といったか、呉から音戸の橋を渡り、その先の島を、本当に一番先っぽまでいったところにある代理店さんの家に、若手社員何人かで泊まりに行ったことがある。

 その人の家の裏に係留してある小型の船で手釣りに行って、夕方、その人の庭で、釣った魚を焼いて、近くの桟橋に結わえてあった魚籠の中に入れてあったエビとシャコを塩ゆでにして食べた。釣った魚の中にグチがいて、奥さんがそれでグチ飯を作ってくれた。これがまぁ、ぶち旨いんよ。

 広島か・・・行きたいのぉ。そろそろ行かにゃあ、いけんかの。


2016年7月

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