アテネ博物館のゴーゴン様
ヘビ女ゴーゴン。海神の娘の三姉妹で、もとは大変な美貌だったという。その美しさが女神にも勝ると自慢したためアテナの怒りを買い、髪が全てヘビというおどろおどろしい姿に変えられてしまった。メデューサはその末妹である。その目に睨まれたものは石と化す。 ギリシアは、地中海のリゾートだけでなく、神話と遺跡、そして古代芸術の宝庫でもある。今回の旅行を5泊の長丁場にしたのは、せっかくギリシアに行くのならアテネのアクロポリスと考古学博物館を子供達にじっくり見せたいと思ったためである。 さて、その考古学博物館。クレタ、ミケーネ文明の先史時代にはじまり、アルカイック期、古典期、ヘレニズム期と、世界史や美術の教科書に出ているような有名な美術品が数多く並び、本当に見所の多い博物館である。有名なポセイドンの像をはじめ、陳列物の殆どが、むき出しで簡単なロープで囲まれただけの状態で間近に観賞できるのも嬉しい。美術の心得のあるひとなんかにはたまらないだろう。 そんなアテネの国立考古学博物館であるが、いささか閉口したのは館内にいる学芸員達である。館内に40幾つかある小部屋のかなりの部分に一人づつ学芸員が控えていた。その大半は女性である。この方々、来館者が小部屋に入ってくると、すわ戦闘開始とばかりに来館者をぴったりマークして回るのである。イメージとしてはボクサーがリング上で相手との間合いを見つつ小刻みに跳躍している状態に近い。
来館者が展示物に近づきすぎたりガラスに手を触れたりするとすかさず”ジャブ”を繰り出す。かなりの来館者が注意を受けていた。さらに驚いたのは、ポセイドンの像の前で息子が同じポーズを取って写真を取ろうとすると、結構な剣幕で学芸員に怒られたことである。写真を撮るなら直立不動でとのお達しである。古代の神の前で不謹慎だということがその理由らしいが、上から目線の物言いには結構いやな気持になった。 また、ある小部屋のベンチでは、子供がサンダルのマジックテープをべりべりと外していたら、「博物館の中で靴なんか脱ぐな。くつろぐんだったら公園へ行け。」とお説教された。靴を脱ぐなって、別に裸足でその辺をへたへた歩いたわけではなく、ただ、サンダルを履き直していただけである。しかも「公園へ行け」なんて、そこまで言われる筋合いもないような気もする。
なにやら彼女たち女性学芸員は全般に終始お怒りモードであった。へいへいとその場では大人しく従いつつ、この人たちはまるでゴーゴンみたいだなと心の中ではひそかに思っていた。 ゴーゴン様達はアクロポリスの丘にもいて、不届きな入場者たちに向かってビリビリと警告の笛を吹き、目から石化ビームを放っていた。あな恐ろしや・・・。 遺産を敬愛し、大事にしたい気持ちはわかるし、こちらもそのつもりで拝観せねばいけないのもわかるけどね。でも、そんなに怒ってばかりじゃ、本当にゴーゴンみたいな顔つきになっちゃいますよ。もっと気楽に楽しくいきましょうよ。
写真1枚目はポセイドンのブロンズ像。2枚目は、ちょっかいを掛けてアフロディテにサンダルでひっぱたかれる牧神パンの彫像である。