おらんだ・ことはじめ「小さな国の大きな人々」
オランダ人はデカい。ゲルマン系民族の中でも断トツのデカさではないかと思う。平均身長は男子184cm、女子171cmとのことであるが、実際そんな感じである。ただ、それはあくまで「平均」の数値なので、街を歩けば190cm級の男性はザラに見かけるし、2m超もかなりいる。 このことは、生活インフラ面にも如実に現れている。下世話な話になって恐縮だが、例えば男子の小用の便器の設置位置が異常に高い。用を足して戻ってくるなり「国辱すら感じる。」とつぶやいた出張者がいた。小学生の我が息子が、高圧ポンプ消防車の如く、見事な仰角で放水を行っている光景を見て、腹を抱えて笑ったこともある。 ここでは、アメリカによくいるような女王蟻の如き超肥満体形はまず見かけない。しかし、皆 堅肥りで、男女ともに見るからに膂力(りょりょく)に満ちている。自重だけでも相当なはずの貨物自転車(ユニットバス程の荷台が前方に付いた三輪自転車)に幼児を数人乗せて、ペダルをがんがん踏みしめて爆進していく肝っ玉母さんを見ることは日常茶飯事である。 なぜオランダ人はかようにデカいのか? 不思議なことに、江戸時代の出島の絵などを見ても、彼らの先祖は決して大きくは描かれていない。風車群で有名なキンデルダイクにいくと、風車守の押し入れ状の寝床を見ることが出来るが、その丈の短さに驚かされる。バタビア・シュタッドという街で17世紀の帆船のレプリカを見学した時も、同じ形状の士官用のベッドを見た。いずれもドラえもんサイズである。当時は上半身を起こして眠ったとの説もあるようだが、それにしても・・・である。今のオランダ人なら中で体操座りをするのがやっとだろう。 オランダ人は近代のどこかの段階から大きくなったという説がある。恐らく事実であろう。では何故? それは、この国の痩せた土地と関係があるという説を聞いたことがある。確かに、かつて海面下であったこの国の土地は痩せている。道路工事をしている光景に時々出くわすが、アスファルトを剥がした下は殆ど砂地である。 オランダは酪農の国である。この痩せた土地に牧草を満たし、牛や羊たちを養うために、かつては盛んに成長ホルモンを大地に撒いたという。その成長ホルモンを蓄えた草を牛が食う。濃縮されたホルモンが乳として絞られる。その乳をさらに濃縮してチーズを作る。そのチーズを毎日食べるオランダ人の身体の中に成長ホルモンがどんどんたまっていく。だから彼らは大きくなったのだという。 或いはただの都市伝説かもしれない。しかし、冗談なのか本気なのか分からない毒舌を交わし、お互いの身体をどつき合いながらお気楽に談笑している巨人の如き彼らの体躯を見ていると、「きっと成長ホルモンのせいなんだ」と深く頷きたくなってしまうのである。