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威風堂々

 出張日程の全てが終わった日の夕方、ドイツのとある街で、一人で夕食を食べた後、夕風に吹かれながら歩いていると、どこからともなく管楽器の音が聞こえてきた。  音のするほうへ行ってみると、中央の広場を囲むように三方に回廊がある建物で、地元の管楽器楽団が演奏練習をしていた。2段の回廊に私服の管楽器奏者がずらりと並び、広場の中央近くの高くなったところに指揮者が立って、ドイツ語で「違う、そこはそうじゃない。もっとこう、タララランッと力強い感じだ。」といった風の指示を出していた。広場には椅子が並べられ、夕涼みがてら入ってきた街の人たちがその音色を聞いていた。  曲は、エルガーの威風堂々。練習が進み、やがてクライマックスに近づいていく。途中は、回廊2階中央に位置する10人ぐらいの管楽器奏者とティンパニだけの演奏。そしてリズムが変わり、荘厳なラストのパートに入る。  最初に、両脇のホルンが低く厳かに主題を演奏しはじめる。やがて、それに唱和するように、少しづつ参加する管楽器の数が増えていく。行進の足音のように短いリズムの音色。その中央を行く力強い旋律。そして迎える圧倒的なフィナーレ。三方から滝のように流れ落ちてくる威風堂々のクライマックス。上空には、9時を過ぎてなお明るい欧州の夏の空。飛行機雲。ただもう、圧巻である。

 アムステルダム、モスクワと、7年の海外赴任を終えて、帰国して3か月。どうしてこう、なにもかもうまくいかないんだろうと半ば自信を失いかけていた自分に対して、何かが大きなエールを送ってくれている。そんな風に感じたひと時だった。(2016年7月8日)


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