一番星
モスクワ生活も本当にもう秒読みになって、公私共に綱渡りの日々を続けている。今日は久々に夜が空いていたので、オフィスで暫く片づけをして、一旦家に帰った後、どうしても最後に行っておきたくて、自分のホームグラウンドだった日本食レストラン「一番星」に歩いて行ってみた。 自分は、本質的に一人で飲むのが好きなんだろうと思う。この店は、一人で飲むのに合ったつまみがあって、なにより、いつも昭和なフォークや歌謡曲がBGMとして流れているのが良かった。 今日もまた、まさにドンピシャで、昭和フォークのオムニバスがかかっていた。「我が良き友よ」なんて、思わず声に出して口ずさんでしまった。でも、本日の一番はやはり、さだまさしの「雨宿り」だろう。漫談調のさだ節、そしてどこまでも優しい世界。 自分に、人生の楽しみ方を教えてくれたのは、恐らく父だと思う。音楽も、読書も、歴史も、海外というフィールドも、みんなそうだ。「雨宿り」は、自分が中1で中東のバハレーンに移り住んだ時に、親父の車のカーステで良く聴いた曲だった。 自分がアムスに赴任して一年が経とうとしていた頃、親父は突然膵臓ガンを発し、あっという間に亡くなった。死に目にも間に合わず、かろうじて納棺直前に会うことが出来た。 葬式の翌日だったか、親父の書斎で、引き出しに綺麗に整理されたCDから、さだまさしのベストを出して聞いていたら、ちょうどこの「雨宿り」のイントロが始まったところで、何も触っていない電気スタンドがぱっと点いた。あぁ、親父は、この曲が本当に好きだったんだなと思った。 その親父ももうじき七回忌を迎えるが、自分はあれからずっと海外にいる。そういう意味でもそろそろ帰国の潮時なんだろう。 前回海外駐在のメキシコ時代、一番つらかったのは、逃げ場がなかったことである。当時自分は30代。職場と家庭で精いっぱいで、それ以外のものが入り込む余地がまるでなかった。今、こうやって適当に好きに出来るようになったのは、年の功かもしれず、だとすれば、オッサンになるのも決して悪くないと思う。 いずれにしても、モスクワで、日本食をつまみながら、こんな風にゆっくり過ごせる場所を与えてもらえたのは本当に有難かった。 一番星さん、お世話になりました。そして、本当に有難うございました。