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ウズベキスタンの綿花と人々


 ウズベキスタンを旅行した際、ヒヴァの近郊の国道で、摘み取った綿花を満載したトラクターをしばしば見かけた。そうか、アラル海からの灌漑で成立した旧ソ連の一大綿花生産地が正にここなのだ。ヒヴァの一帯は砂漠かと思っていたが、粘土質の乾いた土壌で、そのあちこちに灌漑水路が張り巡らされていた。

 干上がってしまったアラル海・・・NHKドキュメンタリー“21世紀は警告する”・・・。高校の地理で習ったことを、思いがけず現実として目の当たりにすることになり、非常に驚いた。

 刈り取った綿花の枝が、トラックに満載されていたり、民家の軒先に積み上げられているのも見た。綿花の茎や葉は、例えばオクラやマメ科の植物のような、もっと柔らかなものかと思っていたが、むしろ柴に近い硬い枝で、石窯/タンドールの燃料にも使われているとのことだった。

 この硬い枝の先っぽにある小さなワタを摘み取るのは相当面倒そうだ。手も痛いだろう。帰ってネットで調べてみたら、大規模な収穫機械を使って綿花の刈り取りが出来るのはアメリカぐらいで、アフリカ諸国やここウズベキスタンでは、人海戦術で対応しているらしい。ソ連の時代から学童もこの作業に駆り出され、現在でも児童(学生?)労働として国際問題になっているらしい。欧米系被服メーカーの一部は、これが理由でウズベキスタンでの綿花事業をボイコットしている。

 アラル海を干上がらせ、就学世代にまで労働を強いる反社会的綿花事業・・・。それが国際批判の対象となるのももっともである。だが、他に収入を得る術が見当たらないこの土地で、いったいどうやって現金を得るのか。そんなことは知ったことではありませんということなのか。

 自分は、是非ではなく、あくまで自分に起こった事実の認識について書こうとしている。

 ウズベキスタンは、リヒテンシュタインと並び、世界で2つだけの二重内陸国(Doubly landlocked country)である。要するに、海に出るために国を二つ跨がなければならない。

 ウズベキスタンから近隣国に行く出稼ぎ労働者は多い。同国の人口3000万人のうちの500万人もが、一時はロシアに出稼ぎに出ていた。最近は、ロシアの不況とルーブルの大幅な下落で、その数がぐっと減ったとのことだが。  帰りの便に乗るためウルゲンチ空港に着いたのは朝3時。地方にしては結構立派な空港の建物だったが、敷地に入る前に工場の入り口のようなセキュリティゲートがあり、その前の暗闇に何十人もの出稼ぎ労働者と思しきウズベク人の男たちが黙って立っていた。彼らのパスポートの束を持った係員が、怒鳴るようにしてひとりひとりの名前を読み上げ、呼ばれた男は黙って荷物を持って前に進み、検問を受けた。自分はどうすればいいのかと戸惑っていたら、あんたは通っていいよと、パスポートをちらりと見せただけで、すんなりと中に入れてくれた。

 搭乗した飛行機は、左右3列づつの席で、ピッチも異常に狭く、椅子でぎっしりといった感じの機内。自分以外はほぼ全て出稼ぎ労働者だった。モスクワの空港について、まだ滑走路を移動中なのに立って荷物を降ろそうとする乗客を、CAが大声で注意する光景が散見された。モスクワの道路工事、雪かき、ショッピングセンターでの買い物カート集めといった労働は、かなりの部分がウズベキスタンからの出稼ぎ労働者によって賄われている。

 あの悠久な時間と優しい人々。綿花栽培、そして物言わぬ労働者集団。それが、今回自分が見たウズベキスタンである。


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