おろしや国 寝台列車レポート「A寝台で行こう」
自分は、両親が長崎県の佐世保市の出身で、育ちが関西だったので、帰省に寝台列車を使うことがしばしばあった。寝台特急「あかつき」、当時で言うブルートレインである。あの頃の小学生男子は、大なり小なり、皆、「鉄ちゃん」だった。 ということで、今でも、海外で機会があれば、是非寝台列車に乗ってみたいと常々思っている。今回のノブゴロド行きで、ロシア版の寝台列車にトライしてみた。 行きは、それしかなかったので特等の個室。帰りの便は、所謂A寝台で、コンパートメント内に1段式のベッドが向かい合わせに2つあって、2人で使用する形式だった。 その帰りの便。相部屋には誰か来るのか・・・。ロシア語も出来ないし、誰も来なければ気楽でいいのだが。相部屋にする場合でも、さすがに男女の別は考慮するんだろうな・・・。などと考えていたら、何の合図もなしにガタンと車両が動き出した。 やはり空いていて、結局相部屋は無しなのだ。気が楽になって、ベッドに横になって本を読み始めた。すると、2~3分ほどして、車掌のバーブシカ(おばあさん)が扉を開けて、ロシア語で何か盛んに話し始めた。 各車両には、一人づつ世話役(そして恐らく監視役)の車掌がいるのだが、これが見事に同類型のバーブシカ達なのである。(複数形だからバーブシキだな。)皆さん豊かな体格でいらっしゃって、押しが強く、少々荒っぽく、でも基本的に人はよさそうである。 さて、我らがバーブシカは、コンパートメントの扉越しに自分に何事かを訴え続ける。自分が”Я не понимаю.“(わからない。)というと、そのバーブシカは自分に表に出ろと言い、通路を通って入り口側に近いコンパートメントの扉を開けて「ここに入れ」という。見てみると、中には20代ぐらいのロシア人の女性がいた。 「???」 趣旨がよくわからない。サーブするのに二人まとまってた方が楽だからか、或いは、お互い一人でいるのは気の毒だと思ったのか・・・。戸惑っていると、バーブシカは「早くしろ。」という。 まぢっすかと思いながらも、とりあえずその部屋に荷物ごと移った。向かいのベッドに座っている女性に、「英語がわかるか?彼女は何といったのだろう?」と聞いてみると、もう一方のベッドを指差して、無愛想に"This is your place."といった。 うーむ。無愛想なコだし、マチガイもあるまいが、それにしてもこれは・・。そう思いつつ、いきなりごろんと横になるわけにも行かず、彼女と向かい合わせになって、ちんまりベッドに座って本を読まざるを得なかった。 5分ぐらい後だろうか、再びカツカツカツと扉をたたく音があり、件(くだん)のバーブシカ登場。相部屋の彼女に、ロシア語で「あっちの部屋が空いたから移動するか?」と話しかけたようで、彼女は無言で荷物を取って出て行った。結局、元彼女の部屋に自分が移り、彼女は別の部屋に行った。 いやまぁ、その方が私も助かるのですが、と思ったが、それにしてもなんだったのか。一通り落ち着いた後、ふと、「強制移住」という言葉が頭に浮かんだ。バーブシカによる車内強制移住。恐るべしロシア。恐るべしバーブシカ。である。