おらんだ・ことはじめ「The Flying Dutchman」
KLMの機体に書いてあるフレーズである。元ネタは、ドイツ語で「Der fliegende Holländer 」、日本語では「彷徨えるオランダ人」というワーグナーのオペラのタイトルで、幽霊帆船を題材にしたおどろおどろしい話しなのだが、それを自国の飛行機会社の機体に書き込んでしまうあたり、オランダ人独特のユーモアが感じられて微笑ましい。 このところは陸路でベルギーへの出張ばかりなのだが、先日久々にロンドンに飛行機で出張してきた。ロンドン-アムス間はせいぜい1時間のフライトなので、機内では簡単な飲み物とスナックが配られる程度である。いつものようにそれらが配られてしばらくたって、そろそろ着陸体制という頃、客室乗務員がカートを押してコップとスナックの袋を集め始めた。 自分も空のコップを手渡そうとふと通路を見ると、小学校1年生ぐらいの金髪の女の子が僕のコップを持っていった。恐らく彼女はたまたまトイレに立っただけなのだと思うが、通路も通れなくなっているせいもあってか、甲斐甲斐しく乗客のコップや袋を集めては客室乗務員に手渡していた。自分の娘と丁度同じぐらいの女の子で、「そういうことしたい年頃なんだよなぁ」と微笑ましく見ていた。 やがてその回収作業も終わり、機体はスキポール空港に着陸して滑走路をターミナルへと向かって移動した。女性客室乗務員が機内アナウンスで「本日のご搭乗どうもありがとうございました」的な挨拶をしつつ、何故か口の端でへへへと笑った。 どうしたんだろうなと思っていると、「えー、それではここで私たちの新人客室乗務員を紹介させていただきます。」とのアナウンスがあり、さっきの女の子が少しはにかみながら挨拶をした。乗客が機体から出るときも、その女の子は搭乗口の脇に他の客室乗務員と並んでいっぱしにさよならの挨拶をしていた。 一生忘れないだろうな。そういう思い出は。 Flying Dutchmanらしい、なかなか粋な計らいであった。