おらんだ・ことはじめ「ジョークがストレートすぎませんか?」
オランダ人は時々、冗談なのか本気で喧嘩を売っているのか判別に迷うような際どい冗談を言う。また、「それを言っちゃあ身も蓋もないだろう」というようなことを、笑いながらずけっと言ってしまう。前回の「ケチ」についてはもともと世界的に有名なので、オランダに来てなるほどやはりそうだなと思ったのだが、こっちの直言気質のほうはこちらでオランダ人の同僚と仕事していくなかで自ら「発見」した性向である。 この間の日本帰国の飛行機の中でも、そんな「Dutchな」出来事があった。 欧州から日本に向かうフライトは大体11~12時間。まず最初の2時間ぐらいで機内食を食べて、その後機内を暗くした「仮装夜」の状態が6時間ほどあり、着陸前3時間ぐらいになると再び電気がついて機内食が配られるというのが一般的なパターンである。「事件」はこの最後の3時間で起こった。 シベリアもかなり東端に近づき客室乗務員の動きがなんとなく慌ただしくなる。そろそろだなと思っているとやがてパパッと電気がついて機長のアナウンスが始まる。 「皆様ゆっくりお休みになれたでしょうか。当機は順調に飛行を続けており、予定より15分早く、日本時間8時丁度に関西国際空港に着陸の予定です。地上からの報告によりますと、現地の天気は・・・・」 というアナウンスなのだが、オランダ人機長による上記アナウンスが、途中からちょっと耳を疑うような展開になった。 「ここで、乗客の皆様に重要なお知らせがあります。当機はただ今、水の欠乏状態にあります。恐らく、客室トイレの一つにて水が流れっぱなしだったためと思われます。当機の安全な運行のため、これより先はトイレのご使用はお控えいただくようお願いします。これにともない、これからお届けします機内食サービスでは、お水のサービスはやめ、お飲み物はone cup of teaのみ、コーヒーは無しとさせていただきます。なお、お客様のご協力が得られない場合、当機はソウルに緊急着陸せねばなりませんので、十分にご留意いただきますようよろしくお願い申し上げます。」 上記のような内容を、最初はオランダ語で(もちろん僕はわからないが)次いで英語で淡々と語るのである。聞きながら僕は「ああ始まったな。」と思った。蒸気機関車じゃあるまいし、水がなくなったから機関停止なんてありえないだろう。さて一体どこまでがホントでどっからが冗談なんだろう。こりゃあ見ものだな・・・・。そう思って聞いていた。 すると、あきれたことに、今度は上記そのまんまの内容を日本人の客室乗務員が日本語で「ソウルに緊急着陸」のくだりまで全部直訳でアナウンスしたのである。さすがに日本語で日本人女性客室乗務員のアナウンスで語られると全く冗談には聞こえない。ええんかいなそれで・・・そこは翻訳の時に少し割り引かんと・・・と唖然としながらそのアナウンスを聞いていた。 やがて機内食が運ばれてきた。確かにいつもあるミネラルウォーターのパックはなかったが、オランダ人男性の客室乗務員が曰く、 「Coffee or tea?」 やっぱりね。思った通りDutch流の冗談だったか。しかし機長の機内放送でそれをやるかね・・・。大いにあきれつつコーヒーを頼んだ。 やがて飛行機はソウルに着陸することもなく無事関空へ。ただ、飛行機を降りてすぐの場所に女性地上職員3~4人が手に手にペットボトルの水を持ってずらっと並んでおり、「ご迷惑をおかけしました。」と連呼していた。やはり、トイレの水がなくなっというところまでは事実だったんだろう。 これはちょっと極端な例だが、「この場面でそこに球を投げ込むのはちょっとキッツイやろ・・・」というような冗談を、オランダ人は結構日常的にやっている。「ずけっと直言」も然り。そんな時、他の欧州人のリアクションは、総じて「どん引き」である。傍で見ていて結構冷や冷やする。 婉曲は日本人だけのお家芸と日本国内では思われているようであるが、そんなことはない。案外どの国でも大人対大人のコミュニケーションではそれなりのエレガンスが求められ、それを満たすだけの婉曲表現を多くの言語は持っている。そんなことはあまり気にしないオランダ人は、やはりどうしてもちょっとKY扱いされてしまうようである。 ちなみに、ネットで調べてみると、Dutchを使った表現に「Dutch uncle」というものがあり、意味は「歯に衣を着せずものを言う人、ずばずば言う人、けちなやつ」とあった。やはり彼らの直言性向も世界的に認知されているようである。