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おらんだ・ことはじめ「やっぱり彼らはケチなのか?」


金を使いたがらないという定義で言えば、やはりケチということになるだろう。しかし、吝嗇(りんしょく)という表現を使ってしまうといささか可愛そうな気もする。彼らが出費を嫌がる感覚には、吝嗇で出費そのものを惜しんでいるというより、回教徒が豚を忌み嫌うように、何か信仰に根ざしたような拒絶反応を感じる。彼らは、他人の「浪費」すら端で見ていて許せないようだ。プロテスタンティズムに根付いているのかもしれないが、その「信仰」にはもっと土着的な生々しさを感じる。  話しは突然変わるようだが、オランダ発汎欧州のヒット商品にTom Tomという脱着式のカーナビがある。10cm四方程度の小型の液晶画面をフロントガラスの内側に吸盤で付け、シガーソケットから電源を取って使用するのだが、価格が1万5千円程度にも関わらず、カーナビとして備えるべき基本機能は十分揃っており、画面も見やすく、中東欧も含め殆どの欧州各国をカバーしていて、英仏独伊西蘭葡等の多数の言語を網羅している優れものである。自分の車で出張やレジャーに出かけるときには手放せないし、飛行機で行く出張先でもレンタカーを運転する場合はこれをカバンに放り込んでいくと非常に便利である。  このTom Tomを使っていて、「いまや欧州メジャーでも、やっぱ根はDutchやなぁ。」と半ばあきれる発見があった。オランダ、ベルギーでは、極一部の海底トンネル等を除き大半のハイウェイは無料なのだが、フランス辺りまで足を伸ばすと普通のハイウェイも有料な場合がある。件のTom Tomでこういう道を通る場合、行き先設定時に「有料道路がありますがどうしますか?」というポップアップが出て、YesかNoかの回答を求められる。有料でもいいやとの判断の場合、日本人の普通の感覚としては、やはり「Yes」を選択するだろう。  Tom Tomでは、上記の場合の正しい選択は「No」なのである。画面をよく読むと「有料道路がありますが、それは通りませんよね?」との質問になっている。昨年秋、家族と一緒にパリのディズニーランドまで車で行った際に、この質問の趣旨をきっちり理解せずにYesと押してしまい、フランスに入ってから延々農道を走る羽目になった。有料道路なら避けて通るのが標準設定とは、さすがDutchである。時間は余分にかかってしまうが、流れる景色はのどかでそれはそれで悪くないフランスの田舎道を走りながら、妙に感心してしまった秋の午後であった。  司馬遼太郎の「街道を行く」シリーズの中に「オランダ紀行」という1冊があるが、その中でベルギー人がそんなオランダ人のケチを揶揄したジョークが紹介されている。いささかブラックであるが、オランダ人の愛すべき一面を痛烈に風刺しているようで、なんともいえない味わいがある。この稿の締めくくりとしてそのジョークを引用したい。  ベルギーの酒場に二人のオランダ人がやってきて、やがてけんかをはじめた。店の主人がわけをきくと、どちらが勘定を払うかでもめているという。じゃあ私が仲裁しましょうと、主人は水を満たしたバケツを二つもってきて、「顔を浸けなさい、早く顔をあげたほうが勘定を払うんです。」といい、オランダ人たちはそれに従った。 そのあとどうなったかって? 二人とも死にました。 さもありなん、である。


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