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YUYA 
​OGATA

世界の終わり

  • 執筆者の写真: Sakamoto Koji
    Sakamoto Koji
  • 2009年4月19日
  • 読了時間: 4分

 11月からずっとひどい残業続きで、心身ともに限界に達していた。ややこしい仕事が幾つか重なっていたせいだが、そのうちの幾つかは、会社組織の中で放置され続けてきた腫瘍を潰すような仕事で、僕は、黄色い膿を全身に浴びるような感覚を何度も感じた。その膿は毒素のように僕の神経を犯したが、その液体の色と匂いを感じていたのは僕だけのようであった。明らかに、心のバランスを崩していたとおもう。  昨年度末までに、3日まとめてもらえるはずだった特別休暇も、結局ふいにしてしまった。まだまだ課題は多く残っていたが、一番やばかった仕事は、なんとかぎりぎり年末までに解決することが出来たので、4月6日の月曜日に1日だけ休みを取り、3年生の新学期の初登校日を終えた息子と、年長組のクラスがまだ始まっていない娘と、そして妻とで、近所の公園の満開の桜の下でおにぎりを食べた。すこしは気を緩めたペースで残りの週仕事をして、12日の日曜日に41歳の誕生日を迎えた。明けて月曜、午前中の会議を終えた頃から僕は猛烈な悪寒を覚え、会社の診療所で診察を受け、そのまま家に帰った。  結局、39度の高熱は3日間続いた。化膿性扁桃炎。三日目になっても熱が下がらなかったので、ホームドクター的に僕ら両親もお世話になっている自宅近くの小児科で、僕は一日抗生物質の点滴を受けていた。夜になっても熱が引かず、僕は布団の中で、自分を痛めつける全てのものを罵った。そうした中、最後の熱の夜となったその日の明け方に不思議な夢を見た。これまでにみたことのない、本当に不思議な夢だった。  大きな、本当に大きな杉の木が倒れていて、その上に緑の網のようなものが掛けられていた。杉の木の枝の下には、それぞれ何人かの人達が人たちが身を潜めていた。辺りは肌寒く、空は曇っていて、その杉の倒木の上には黄砂のようなものが降り注いでいた。世界は終わろうとしていて、人々は肩を寄せ合って、来るべき最後の瞬間と向き合おうとしていた。  僕は、ある男と二人で狭いケージのような場所にいた。さっき見た杉の枝の下なのだろう。外では激しい雨が降り始めていた。硫酸の雨だった。猛烈な風と雨で、硫酸のしぶきが自分たちのいるシェルターにも激しく降りかかった。座っても頭が付くほどのその狭い空間の中で、その男は少しでも隅っこに、少しでも小さく身体を押し込めて、硫酸のしぶきから逃れようとしていて、僕は表に近い方にただ座り続けていた。雨と風は一層激しさを増し、硫酸の雨は直接僕らのシェルターの中にも降り込み、大量の硫酸が僕らの身体に降り注いだ。  「うわあああああ。剥げる、剥げるうううう。」  男は激しい悲鳴を上げた。男は、その頭に、何か帽子のようなヘルメットのようなものを被っていた。僕はそういう頭部を守るものは何もつけていなかった。  「おまえはあ・・・おまえはああ・・・・そのままでいいのかああ・・・・」  男は激しく悲鳴をあげ続けながら、僕に向かってそう叫んだ。男は、「お前が求めても、自分のその防護のものは絶対に貸さないからな。」ということを確認したがっているようであった。  「構わない。」  僕はそういった。既に、僕の身体にも、その男の身体にも、激しく硫酸の雨が降りかかっていた。  「お前はあ・・・お前はそれでいいかもしれない。しかし、お前の女はそれでもいいのか。」  男は悲鳴を上げ続けながらそう叫んだ。  僕の女(ひと)もそれでいいはずだ。僕は男にそう言った。  「どんなに形が変わってしまってもいいから、とにかく生き続けて。」  その女が僕に言ったその言葉を、夢の中の僕が思い出した瞬間、僕は夢から覚めた。全身がびっしょりと汗に塗れていた。  そのひとからそういわれたのは、13億年前のことだった。 もう夢から覚めていたはずなのに、何故か、僕はそう思った。  目覚める最後の瞬間僕に残ったイメージは、灰色のような茶色のような色合いの球状で、真ん中にレンズのような、眼のようなものがついていて、それが僕のほうを見ているという映像だった。それは、天井の隅に付けられた球形の監視カメラのようにも見えた。  その後、それまでの熱が嘘のように引いて、僕は木曜から普通に会社に行った。熱と汗と共に、自分の中にべっとりと溜まっていた、あのドロドロした何か、それは、ここ暫くのどたばただけではない、もう少し前から溜め込まれ続けていた何かが、一気に洗い流されたような不思議な感覚があった。  あの夢は、自分にとって何か大きな意味があった。そんな気がしている。

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