都心のイワシ
僕の住んでるあざみ野から丸の内への勤め先へは、東急田園都市線から地下鉄半蔵門線への相互乗入があるおかげで、電車としては1本でいけるのである。通勤時には渋谷から表参道あたりに来るまでが殺人的に混むということがちょっと難点ではあるが。(この点は別途レポートしたい。)降りる駅は大手町。ここから丸の内のわがオフィスまでは、結構な距離の地下道を歩くことになる。僕が欧州出張に行く前の8月後半は、まだ夏休みモードだったせいか、それほどの人はいなかったが、9月に入ってからは大変な人の量である。向こうへ行く人とこちらへ向かってくる人が、それこそイワシの群れのように滔々と流れていく。 僕は歩くスピードがかなり速いほうだと思う。確か、ロスアンジェルスの空港構内でだったと思うが、歩く歩道の上を歩いている人よりも地上の自分のほうが速く歩いていることに気づき、我ながらあきれたこともあった。とにかく、そのスピードで自分の進行方向に対し順方向で進むイワシの群れの中をすり抜けつつ、順方向、逆方向のイワシの群れが入り乱れる箇所(改札の前等)では、自分が抜こうとしている固体や向こうから泳いでくる固体の進行方向とスピードを計算しつつすばやくルート検索を行いぶつからないように進む。なおかつ、その最中でも、向こうから来る美女は必ずチェックする。松、竹、梅、梅、竹、梅、松、梅、特上松!!(振り返りチェック) 僕は都会の人ごみが大の苦手だが、この朝の丸の内のイワシの人々は不思議とあまり苦にならない。殆ど同一種、同サイズの魚たちが、一定方向に一定速度で移動しているからだと思う。そういう行動パターンはまさにイワシそのものである。一方で、僕が最も苦手な「魚群」は、新宿の魚たちである。とにかくいろんな種類がいて、ばらばらの方向にばらばらの速度で動く。中にはとまったりしゃがんだりするやつもいる。ちょうちんアンコウみたいなのや熱帯魚みたいなの、サメっぽいのもいる。渋谷もある程度そうだと思うが、僕はとにかくダントツで新宿の人ごみが苦手である。入り乱れる人ごみからそこいらじゅうに撒き散らされた悪い「気」のようなものが、ぐろぐろとどす黒い渦になって流れているようで、本当にちょっとそこに足を踏み入れただけでぐったりと疲れてしまう。 そう書いていてふと思い当たったが、英語では「すし詰め」のことをpacked like sardinesというのだ。やっぱりわしらはイワシなのである。